1.『ファスト&スロー』上下 ダニエル・カーネマン
・どんな内容?
行動経済学で2002年ノーベル経済学賞を受賞した本人による著作。
アンカリング効果やフレーミング、プロスペクト理論などなどをどんな実験や過去研究から導き出したのかの説明と事例がてんこ盛りです。
・行動経済学とは?
従来の経済学では、個人も企業も合理的に行動する、価格は消費者の満足に直接影響を与えない想定になってますが、実際にはそんなことはなく我々は非合理的な選択をすることがよくあります。こうした人間っぽい行動に規則性を見つけ、心理学の観点から論理的に説明したのが行動経済学です。
心理学や社会学、ゲーム理論等の素地がある人は「知ってた」との印象を抱きやすかったり、自分の経験則から「知ってた」と感じる向きには目新しさ感薄いです。しかしながら、主に心理学界隈では知られた知見を的確にすくいあげ、実験・調査を重ね、日常的な消費行動や市場の動きをよく説明する理論に仕立てて、従来経済学では説明しきれなかった部分を体系化した点が大きな功績と評されました。
・ポイントは?
人間は完璧な計算能力と意思決定の力を持ってない。人間は錯覚し、間違い、自信過剰で意志が弱い。
人間はバイアスの塊。幾多の修羅場・経験を重ねてても、目下の状況に好都合な記憶を優先して意思決定しがち。
・関連書籍は?
2.『出社が楽しい経済学』
サンクコストや機会費用、共有地の悲劇などの経済学用語を、劇団SETがコント仕立てで説明するNHK教育番組が書籍化。
就活のエントリーシートは意味あるのか(スクリーニング)、出会い系サイトで出会いにくい理由(逆選択)、セカンドプライスオークション(勝者の呪い)といった身近な事柄で解説。経済学に馴染みがない人を想定した平易でシンプルな構成です。
ちゃちゃっと概要つかめます。ミクロ経済学についてもサッと学べます。代償として行動経済学関連の記述は1の半分にも満たないです。
3.『選択の科学』シーナ・アイエンガー
ジャムの品揃えが豊富すぎると売上が下がった実験で有名。
購買行動に限らず、生きてると選択の場面が多々あり、人は何をもとに選択しているのか、そのクセや背景を多くの事例から読み解いてます。
1と半分くらいカブる内容。生活者個人における選択の視点で描かれており、選択の方法論を身につけるのに向いてます。プロスペクト理論はほぼ出てこないです。
・結論と展望
行動経済学は二重過程理論を土台の一つに据えてます。消費行動場面で説明した以下記事がわかりやすいです。
http://macs.mainichi.co.jp/space/web/046/marke.html
システム1(直観)は、システム2(熟慮)に常に影響します。この影響を完全除外するのは無理です。
が、個人でも組織でも、システム1の影響を抑えつつ、システム2で冷静に合理的に論理的に意思決定したい場面は多いです。
では対策法は?
認知的バイアスを排除する自助努力だけでは限界があります。
人間は自分の判断に過剰な自信を持ち、印象を過大に重視し、他の情報を不当に軽視するからです。
カーネマンは以下を挙げてます。
・人間による判断が数式で代用可能なら検討してみる(アルゴリズムへの過度な偏見を捨てる)
・第三者視点を取り入れる(個人でやらずに組織でやる、KKDではなくデータドリブンでやる)
・システマティックにやる(チェックリスト使う、機械にやらせる)
システム2があれば、我々はもっとよい判断、意思決定ができるでしょう。
一方で、システム1が有害なわけではありません。直観が熟慮に勝る、同等なこともよくあります。
またシステム2だけでは、0から1を生み出すようなイノベーションは起こしにくいです。どちらかというとシステム1の得意分野です。
発想のジャンプ、飛躍はシステム1で起きてることが多いです。
という捉え方もできるでしょう。
じゃあシステム1をぐいぐい駆動させるにはどうすればよいか?
例えば矢野顕子さんは、作曲をどうやってやってるかについて
インプットしたものがじわじわと貯まると
それがある日合わさって作曲できる、的なことを言ってました。
作曲は誰にでもできます、インプットをしてれば、それが後のアウトプットにつながります。といった表現だった気が。
つまり、システム1もシステム2もどっちも大事なのです。