第1回 錯覚への紹介
チェッカーシャドー錯視の場合
錯覚は
・自動的に起きる(防げない)
・適応的に役立つ(正確には見えていないが)
円柱の影が差していても、もともと白いものだとみなしているからBの文字は白く見える
ダイヤモンド錯視
ダイヤの色の濃さがグラデーションに見えるが、全部同じ色
境目、特徴的な部分に注目しやすい
錯覚とは、知覚された対象の性質や関係が、刺激の客観的性質や関係と著しく食い違う現象
物理的 光の屈折、ドップラー効果
生理的 暗闇への順応(感覚器:眼の働きによるもの)
知覚的
知覚現象における広義の「錯覚」 恒常性(明るさが変わっても白黒と認識する)、立体視など
知覚研究における「錯覚」 古典的錯視図形など
認知的 思い違い、見落とし、勘違い「認知バイアス」 規範的正解あり(正しく考えれば分かるもの)、なし
認知 cognition:知的な心の情報処理
知覚、記憶、思考(推論、問題解決、意思決定)、注意、学習、、、
感覚:目や耳が刺激を受け取って反応した状態を指す
知覚:感覚器の反応+何が見えたのかを認識して判断すること
ジャストロー錯視
下の方が長く見える
接してる部分を見比べちゃう
フィック錯視
縦(垂直)と横(水平)の棒線
縦線(垂直)の方が長く見える
ポンゾ錯視
ボーリングのレーンみたいなやつ
奥の方が長く見える(奥行き知覚が影響する)
ポッケンドルフ錯視
斜線がどれとつながっているか
第2回 視覚の錯覚 見ることは考えること
人は目で物を見ているということ自体が錯覚
人は脳で物を見る
我々は目で物を見ている、と思っている
目とカメラの構造は似ている
が、我々はカメラのように外界を正確に見ているわけではない
網膜に入力された光学情報(外の世界)から、
特徴抽出、取捨選択、ボトムアップ処理(データ駆動型)して
既有の知識、経験、期待(スキーマ)から
無意識的推論、トップダウン処理(概念駆動型)して
これを足し合わせてパターン認識することで、見えたものを決定している
解が定まらない不良設定問題
一つの網膜像から、三次元の対象を一つだけ再現することは不可能
奥行き知覚の手がかり
両眼視情報 輻輳、両眼視差
単眼視情報 調節、ボケの検出、運動視差(近くのは早く動いて見える、遠くのはゆっくり動いて見える)
絵画的手がかり(網膜像の相対的大きさ、線遠近法、対象の重なり、きめの勾配、大気遠近法、陰影)
クレーター錯視
飛び出て見えるのは、上が明るい球体たち
恒常現象 constancy phenomenon
大きさ、位置・方向、明るさ、形、色
感覚器が捉える外界の情報(網膜像)が変化しても、対象は安定して知覚される
第3回 錯視の世界を体験する
市松模様錯視
間の平行線が歪んで見える
理髪店のポール、電光掲示板の仮現運動
シェパード錯視、テーブルトップ錯視
道路写真の角度錯視
エイムズの部屋
縦断勾配錯視
急激な下りで幅のある坂や川があると、脇の水路は実際は同じく下りなのに上っているように見える
ホロウマスク錯視
凹んだ顔の方は、動いて見える
凹んでる方は通常は見えない角度に見えてしまうので、これは顔が動いてるのだろうと脳で補正してしまう
第4回 視覚の錯覚 知覚心理学と絵画芸術の接点
知覚とは
対象を再現する主体的な試み
予期、知識・スキーマ、手がかりと、網膜像を取引することで、
ヘルムホルツ式推論する(対象そのものを再現する)
線遠近法 透視図法、写真
遠くのものは小さく、近いものは大きく
網膜像に幾何学的に忠実
大きさの恒常性 人の知覚
遠くのものは大きく、知識で補正
現実の対象・ものに忠実
矛盾が生じる
恒常度ゼロ(線遠近法に忠実)と、完全恒常(世界の知識に忠実)には距離がある
発達的観点で考えると、子供の絵は完全恒常の世界を描いていると言える
子供の絵の特徴
・擬似展開図
多視点図法、透明画法で描かれてる
・知的写実主義 intellectual realism
5~7歳までに特徴的、体験と自分のイメージに忠実
・頭足人
重要なところを大きく描く
歴史的観点で考えると、古代や東洋の絵も完全恒常の世界を描いていると言える
ルネサンス期の最後の晩餐は、線遠近法で描かれているが
12世紀の最後の晩餐は多視点図法になっている
これが徐々に変化して線遠近法になっていった
大きさの恒常性の克服
・カメラオブスキュラ(カメラの原点)などのテクノロジー
・解剖学の成果(人間の目がカメラに似てることがわかった)
・石膏デッサンの訓練
印象派の登場
現実に見えている世界に一度振れたところ(写実派)から再度完全恒常の世界への転換期、
人間性、恒常性を回復しようとする試みと言える
写実派:見たままに描く
モネのような一般的な印象派:瞬間を切り取る、時間を切り詰めて自分の印象をストレートに出していく
セザンヌ曰く、物を球や円柱などの抽象的な形に置き換えて再構成せよ
セザンヌの絵は、いくつもの時間をねじ込む、いくつもの視点をねじ込む、凝縮している、時間の持続、濃密な時間
キュビズム(立体派):多視点性、複数の視点がねじ込まれている
第5回 視覚芸術と錯覚
トロンプ・ルイユ(だまし絵)
仰角遠近法:見る人の眼差し、角度を意識して描いてる
絵の中に影を描く→絵の中に空間が生まれる
モネ 筆触分割 細かいところはそうでもないが全体の印象としては、離れるときれいに見える
新印象派 視覚混合
エッシャー 不可能図形
奥行きがない、消失点がない、ルネサンス以降の線遠近画法の意識が錯覚を引き起こす
第6回 記憶の錯覚 人の記憶は確実なのか
記憶の誤情報
目撃者証言
歪んだ情報を与えると、証言内容が割と簡単にすり替わる
経験していない架空の出来事の想起率は、面談を重ねるごとに発生、増加する
記憶インプランテーションの特徴と仕組み
視覚的イメージの影響
鮮明なイメージと記憶インプランテーション
リアリティモニタリング
現実の記憶と、想像した出来事の記憶を区別する過程
現実の出来事=鮮明、想像した出来事=不鮮明
鮮明なイメージが伴う記憶は、現実のものとして受け入れられる
記憶のメカニズム
入力
符号化 encoding
貯蔵 storage
検索 retrieval
出力
記憶の錯覚が起こる仕組み
DRMパラダイム 符号化のところ
目撃証言の誤情報効果 貯蔵のところ
false memory 検索のところ
第7回 思考の錯覚と認知バイアス
考え方の二つのタイプ
これは正しいはずだ、確証を試みる
これは間違っているはずだ、反証を試みる
たいていの人は確証の方を試みる(自分の考えが正しいはずだという思考になっている)
確証バイアス confirmation bias
信念、理論、仮説を支持し、確証する情報を集める
反証となる証拠の収集を避ける
反証や否定的情報の利用を考えられない、失敗する
否定は考えにくい、認知的負荷が高い
肯定性バイアス
錯誤相関(幻相関) illusory correlation
四分割表の1セルにだけ注目してしまう
ポジティブ・フィードバック 予期の確証
信念、起こりうること、リアリティ(結果を見る)、起こりうることを選択的に認知する
クリティカルシンキングのためのポイント
現実の証拠にもとづいて考える
都合の悪いこと、予期しないこと、起こらなかったことに注意が向かない
フレームワーク(四分割表)で考える習慣
第8回 ヒューリスティックと行動経済学
ヒューリスティック heuristic
アルゴリズム algorithm
大数の法則 law of large numbers
数学 十分に大きな回数の事象により、理論上正確な予測値に収束する
心理 小さなサンプルでも大数の法則が成り立つと思い込む(少数の法則の錯誤)
利用可能性ヒューリスティック availability
入手やアクセスがしやすい
認知的に利用しやすい
アンカリング(投錨)と調整 anchoring and adjustment
基準点をもとに微調整して考える
第9回 自己の一貫性と正当化が引き起こす錯覚
認知的不協和理論
認知要素1(タバコ好き)
認知要素2(タバコ体に悪い)
相容れない不協和が生じる
戦略
認知要素の変更(タバコやめる)
要素の重要性を減少(タバコ少ししか吸ってない、タバコ体に悪い論はまだ不備がある)
共和的な要素の付加(タバコ吸いでも長寿な人はいる、温暖化の方が問題だ)
入会儀礼、通過儀礼の実験
認知的不協和とマインドコントロール
厳しい儀礼グループほど、内容評価、入会意向が高くなった
認知要素1(厳しい儀礼:変えられない)
認知要素2(つまらない内容)
1は取り消せない、2を変えるしかない
行動と態度が一貫するように考える
まず、つらいめにあわせる、取り返しのつかないことをやらせる
そっちを正に置いちゃう
おもちゃで遊ぶことに厳しい罰を課す
よりおもちゃが魅力的に感じるので、禁じられてもまた遊ぶ
甘い罰だと、また遊びたい気持ちにはなりにくい
第10回 身近な情報の錯覚
長期的にはあまり効果がないことがわかってるのについ叱りがち
褒める:技術が必要
叱る:簡単、楽
叱る方が効果的に思えるという錯覚が起きているため
褒めた後は下がることになる
叱った後は上がることになる(こっちの印象が勝る、代表性ヒューリスティックが生じている)
平均への回帰 regression の錯誤
二変量が相関関係にあり、その相関が完全でない時、片方が極端な値を取った場合、
対応するもう片方はより平均値に近くなる
身近に入り込む回帰の誤謬 regression fallacies
事前テスト 高群、低群
処置介入
事後テストの平均値比較
単なる統計的回帰に、複雑な因果関係を想定してしまう
回帰が認識されやすい課題
サイコロの目を使うと、回帰の誤謬、錯誤に気づきやすいが、日常生活場面だと気づきにくい
前後論法
事前の状況
変化の原因と推定される処置の導入
事後の状況
以前はaだったが、以後bになった
前後論法における変化要因
同時発生の原因 同時に変化を生じさせる原因がないか?
自然な原因 何もしなくても自然に変化したのではないか?
平均への回帰 極端な値が平均方向へ戻ったのではないか?
欠落したケース 事前と事後で対象が変わっていないか?
第11回 錯覚の光と影 エンタテインメントと悪質商法
注意を向けていないものには気づかない
注意の移動は速いし自動的におこなわれる(注意の自動性)
一方で、意図的に動かせる注意もある
共同注意 他者の視線が手がかりになることもある
チェンジ・ブラインドネス(変化の見落とし)
チェンジ・ブラインドネス・ブラインドネス(変化の見落としの見落とし)
第12回 原因と結果をめぐる錯覚 社会的認知
原因帰属推論には偏りが生じる、錯覚が起きる
原因は心理的に決定する、目立つものに注目してしまう
原因帰属 attribution
内的帰属 性格や能力、気分などの内的属性に原因があると考える
外的帰属 状況など本人以外の外部環境に原因があると考える
ケリーの立方体モデル:四分割表の発展版
人(合意性)AさんBさんCさんDさん
実体(弁別性)対象1,2,3,4
時/様態(一貫性)状況1,2,3,4
全領域の情報を集めるのは大変
原因帰属の錯覚
・基本的帰属錯誤(他者の行動は内的帰属と捉えやすい、自己の行動は外的帰属と捉えやすい)
・行為者観察者効果(自分には外的要因が見えてる、他者には見えてない、逆パターン:俺のおかげという考え方もある)
・自己奉仕バイアス
自己高揚/自己防衛動機
記憶・知覚認知バイアス
学習性無力感(セリグマン)
ストレスにさらされて無力感を学んでしまう、結果、うつになる
が、ストレスに強い犬もいる、説明の仕方の問題ではないか
物事が失敗した時の説明スタイル(どこに原因を求めるか)
・悲観的
自分のせい(内的)、これからも続いて(安定的・永続的)、何をやってもダメ(全般的)
・楽観的
他の事情による(外的)、いまだけ(一時的)、この件に限って(特殊的)
情動と身体的整理変化・興奮
ジェームズ・ランゲ説 情動の末梢起源説
人は悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ
情動二要因理論 two-factor theory of emotion
生理的喚起(覚醒の認知)と、なぜ喚起が起こっているのか?(手がかりからの原因推論)
情動ラベリング
情動が認識される
吊り橋実験 Dutton&Aron
高恐怖条件と低恐怖条件、美人女性が声をかけて実験、絵を見て話を作る、女性の電話番号を知らせる
高恐怖条件は、TATで性的なイメージの話を作りやすい、電話番号受け取る、電話かけてきやすい
第13回 科学的思考と錯覚
血液型性格相関説の歴史
1900 ラントシュタイナーの発見(最初はABCと言ってた)
1916 原来復による紹介
1927 古川竹二「血液型による気質の研究」お茶の水女子大の心理の先生
1971 能見正比古「血液型でわかる相性」
ラベリング効果
A型は○○です、と言われちゃうとそういうものだと思ってしまう、行動してしまう
インプリンティング効果
フリーサイズ効果
誰でもあてはまる性格診断は受け入れやすい
バーナム効果
性格的中の錯覚
人はいろいろな性格を少しずつ持つ
当たったところだけを強く認識する
的中感を増す表現になっている(曖昧な表現、○○な反面~)
疑似科学
科学的な主張や研究のように見えて、実際には科学的とは言えないもの
科学の要件 反証可能性 falsifiability
反証が不可能な仮説や言明は科学ではない K.R.Popper
フロイトの無意識の抑圧も、反証不能だとPopperに言われちゃった
ただしこれも万能ではない、一つの考え方
疑似科学の兆候
・反証不能な理論や態度
・無知へのアピール
・立証への消極性や立証責任の転嫁
・最善の方法論の不採用
・体験談の重視と、科学的ルールの軽視
・統計と心理的要素の軽視
・発見の文脈と正当化の文脈の混同
宏観異常現象
地震の前には、動物や雲、電磁気などにふだんとは違った異常な現象が観察され、大地震を予知することができる
疑似科学の問題点
・単なる誤りではなく、構造的に誤りを再生産する
・広まることで健康や社会環境などに直接の被害をもたらす可能性がある
・特に適切な医療器械を失わせる
・科学的、合理的な思考を妨げる
第14回 自己の錯覚
抑うつ傾向群は、現実主義(正しく現実世界を認識できている)
非抑うつ傾向群は、コントロールできてないのに、自分がコントロールしているように捉えがち
非うつ者は、自己評価が他人の評価よりも高め、自己評価自体が高め
ポジティブ幻想 positive illusion
自分は平均的な人より、よい特性を備えた人間だと思っている(自己高揚な動機)
証左と思っているのは、認知的錯誤、認知バイアスだったりする
・平均以上効果 above average effect
・コントロール幻想 illusion of control
・過度の楽観主義 unrealistic optimism
日本人の場合
positive illusion
将来自分には起こる:幸せな結婚生活、長生きする
自分には起こらない:ガンになる、離婚する、交通事故に遭う、仕事を解雇される
negative illusion
就職がうまくいく
大金を手に入れる、宝くじに当たる
軽い鬱は現実主義的、たいていの人は楽観的に現実を錯覚している
精神的な健康形成にはよく役立っている、ストレスに強い
日本人のイリュージョン
positive
調和性 思いやりがある、親切、寛大
誠実性 まじめ、几帳面、責任感
negative
社交性 異性/同性の間で人気がある、積極的である
経験への開放性 なにか才能がある、知的である
身体的特徴 容姿がよい、スタイルがよい
男性は自身を過剰評価しやすい、女性は過小評価しやすい byシェリル・サンドバーグ’s TED 2010
計画された偶発性(運、よい偶然を引き寄せるには)J. Krumboltz
好奇心
持続
柔軟性
楽観性
リスクテイキング
第15回 錯覚とメタ認知 錯覚とよいつきあいを築く
錯誤には意味がある
人の認知システムに働きかける原則
認知的経済性(節約)
自己高揚・防衛
環境適応と生存
錯覚とのよりよいつきあいのためにはメタ認知
自分の情報処理をモニターし、コントロールする